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【映画通が一度は行きたい京都】小津安二郎監督「彼岸花」の旅館モデルは定宿『佐々木』から (1/2ページ)

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 小津安二郎監督にとって初のカラー作品『彼岸花』は、東京が舞台だが京女が2人登場する。祇園で旅館「ささき」を営む女将と娘の幸子だ。浪花千栄子が演じる女将が佐分利信演じる平山に「良いほうの筍を送るつもりで悪いほうの筍を送ってしまった」とわびを入れるシーンが面白い。

 さらに平山の家でしゃべり込んだ女将は、逆さに立てかけたほうき(京都では「早く帰ってください」の意)を勝手に普通の向きに掛け直す。山本富士子演じる娘のほうは友達の平山の娘、節子が自由恋愛で結婚できるように、一芝居うって平山を手玉にとって承諾させる。

 『彼岸花』は年頃の娘の結婚に悩む家族を描いた名作だが、実は客をランク付けして贈り物をし他人への敷居は高いのによその家に上がりこんで思う存分しゃべり、その上、意外と因習にとらわれず新しい価値観を好む京都人の神髄をユーモラスに描いた「京都映画」でもあるのだ。

 結局、節子は好きな男と結婚し、京都に立ち寄る。節子夫婦は「菜の花のお漬物が好き」と言っていたと「ささき」の女将は平山に報告する。実は「ささき」のモデルは祇園に今もある旅館「佐々木」であり、小津と原作者の里見弴の定宿だった。そこから歩いて数分の「東山 八百伊」の春の名物が菜の花の漬物で小津監督の好物だ。唐突に漬物の話が出るのは、小津監督の京都愛の表れだったのかもしれない。

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