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【中本裕己 エンタなう】家族の悲しみと再生をユーモアまじえ描く 映画「鈴木家の嘘」

 引きこもりの息子が、首を吊って自ら命を絶つ。残された家族の苦悩は想像に余りある。それでも生きていかなくてはいけない。映画「鈴木家の嘘」(公開中)は、この深刻で重たすぎるテーマをユーモアをまじえて前向きに描き、見る者をぐいっと引きつける。

 鈴木家の長男・浩一(加瀬亮)が突然、亡くなった。発見した母(原日出子)はショックのあまり倒れて記憶を失う。病院で、長い眠りから覚めると浩一の死を覚えていなかった。父(岸部一徳)とともに見舞いに来ていた長女(木竜麻生)は、とっさに「お兄ちゃんはアルゼンチンでおじさんの仕事の手伝いをしている」と嘘をつく。叔父(大森南朋)をはじめ、周囲がぎくしゃくした対応ながら、優しい嘘を貫こうとする様子が微笑ましい。

 父がなぜかソープランドに乗り込み、お金が足りず、電話で呼んだ長女から2万円を立て替えてもらう場面がある。徐々に事情が分かってくるのだが、気恥ずかしげで実直な岸部の表情が秀逸。また、兄の死が許せぬまま、同じ境遇の人々の家族会に参加する妹の心情を演じた木竜は、薬師丸ひろ子の再来を思わせるピュアな輝きがある。

 浩一の深い心の闇が乗り移った加瀬。毒蝮三太夫のラジオを好む母の楽天ぶりと悲しさが同居した原。なぜ、この家族が…という設定を名優たちはリアルに描く。野尻克己氏の初監督作品には、兄の自死という実体験が投影されているそうだ。 (中本裕己)

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