記事詳細

【zak女の雄叫び】《zak女の雄叫び お題は「山」》ウイスキー、瓶の中の年月

 ハイボール人気のためウイスキーの原酒が不足し、サントリー「白州12年」「響17年」が販売休止になるというニュースを目にして、急に思い出した。家にも小さいのが転がっているんじゃなかったっけ。冷蔵庫を捜したら、ドアポケットの奥から「白州12年」の飲みさしが出てきた。

 といっても、白州蒸留所(山梨県北杜市)の工場見学で買い求めたミニボトルだから、ほんのわずかしか残っていない。古い手帳で確認すると、白州を訪ねたのはもう9年前、水源地を歩くグルーブに参加してのことだった。

 南アルプスの山々に降り注いだ雨雪は、花崗(かこう)岩の地層に染みいり、20年以上をかけてすばらしい天然水になる。山から下る水、森に抱かれた貯蔵庫、樽の中で時によって醸される原酒…。そんな話に感激して、自宅で何度か味わったが、ウイスキー好きというわけでもないから、すっかり忘れて放置していた。

 私にとってウイスキーといえば、実家の戸棚に飾ってあるもの。ビールばかり飲んでいた父が、いただき物や外国土産の洋酒を並べて、「これは高級なんだ」などと悦に入り、ときどき配置を変えて眺めていた。

 父が亡くなって数年してから、母と一緒にすべて処分した。流しにお酒をあけて、酔いそうだった。だれも飲まないし、きらめくクリスタルの瓶も取っておいても使い道がない。薄情かもしれないが、長い年月、十分楽しんだと思った。

 ウイスキーの原酒熟成には10年以上が必要だという。そして、ワインと違って瓶に詰められてからは味わいが深まることはないとのこと。

 「白州」のスクリューキャップを開けると、かすかに鼻をいぶす、さわやかな香りが残っている。ウイスキー好きに尋ねると、「10年たっていても、全然問題ない。早く飲んじゃうことだよ」。

 熟成の歳月と、空費したのみの歳月。突然差し出された瓶の中の9年間は、来し方を思い、飲み干すには少したじろいでしまった。(N)

 【zak女の雄叫び】取材や日常…。女性記者21人が月ごとのキーワードで本音を綴るリレーコラムです。5月のお題は「山」です。

zakzakの最新情報を受け取ろう