記事詳細

【ドクター和のニッポン臨終図巻】元小結・板井圭介さん 「ピンピンコロリ」痛くない最期

 ★元小結・板井圭介さん

 昨年この連載で、61歳で亡くなった千代の富士(九重親方)の死について書きました。元力士の訃報を聞くたび、若いなあ…と感じることが多いです。

 一説によれば、幕内を経験された力士の平均寿命は62~63歳なのだとか。日本人男性の平均寿命は現在80歳を超えていますから、20歳近くも早死にしていることになります。たとえば2015年に亡くなった元横綱北の湖は62歳、05年に亡くなった初代貴乃花(現・貴乃花親方の父)は55歳での旅立ちでした。

 なぜ力士は短命なのか? その理由はやはり肥満にあります。肥満は糖尿病や動脈硬化の一番のリスクです。

 糖尿病になると、がんになる確率はそうでない人と比べて1・2倍になります。特に大腸がんでは1・4倍。千代の富士の命を奪った膵臓(すいぞう)がんにおいては、1・85倍もの確率になることは知っておいてください。現役時代は、たらふく食べて体を大きくしなければ強くなれない。しかし引退後、運動量が減ったときから病気のリスクが高まっていく…力士とは、命を賭した大変な職業だと思います。

 80年代に活躍した元小結・板井圭介さんが8月14日、62歳の若さで亡くなりました。死因についての報道は見当たりませんが、突然死のようです。14日に元付け人が自宅で倒れているのを発見したとき、水道の蛇口から水が流れ続けていたといいます。

 板井さんは一人暮らしでした。ここ数年は糖尿病を患い、心臓にはペースメーカーも入れており、働くこともままならなかったようです。14日、病院の予約の時間に来ないことを心配した元付け人が自宅を訪れたことから、死亡が確認されました。

 私は昨年、『男の孤独死』という本を執筆しました。孤独死のリスクは60代の独居男性に高いことがわかっています。孤独死とは、その多くが突然死です。つまりピンピンコロリとほぼ同義。「ピンピンコロリと逝きたいが孤独死は嫌だ」というのは、ある意味、矛盾した考えなのです。

 ただし、早めに誰かに見つけてはもらいたい。そのためには、やはり日頃の人づきあいが、大切。板井さんの場合、すぐに元付け人が見つけてくれたようですから、不幸な死とは言えないでしょう。

 現役時代、本名のまま土俵に上がり続けるなどユニークな逸話がいろいろ残っている板井さん。

 親方からは「板井」は「痛い」を連想させ縁起が悪いので四股名を名乗るよう強く勧められたそうですが、頑として本名にこだわって闘い続けました。しかしその最期はピンピンコロリ、「痛くない死に方」だったのではと想像します。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

関連ニュース