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【zak女の雄叫び】《zak女の雄叫び お題は「晩」》晩生の梨と宮沢賢治「やまなし」

 果物で一番好きなのは梨だ。さくっと歯に当たる感触と、果汁のみずみずしい甘さに、体の奥が目覚め、やさしく潤される感じがする。

 中でもお気に入りは幸水梨で、「ふるさと納税」を数年前に知り、そんなうまい話が…と恐る恐る申し込んだ返礼品の一つが、千葉の幸水梨だった。以来、毎年各地の梨を楽しませてもらっている。

 秋の味覚とされる梨だが、少しでも長く味わいたい。8月初旬は九州、下旬は信州の「幸水」。品種を変えて9月中旬には「秋月」。先日、鳥取から「王秋」が届いた。中国梨と二十世紀梨などを掛け合わせた品種で、ずんぐりと大きく、卵のような形をしている。常温で1カ月、冷蔵すると長期保存できてお正月にも味わえるという。走りのものは心弾むが、意外なほどの晩生もうれしい。

 「王秋」の重みを手で楽しみながら、ふと宮沢賢治の童話「やまなし」を思い出した。「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です」という書き出しで、水底で幼い蟹の兄弟が生き物の生死を見つめる、不思議な透明感をたたえたお話だ。

 ずいぶん昔、版画家・伊藤卓美さんの手になる「宮沢賢治木版歌留多」について取材した。多色刷り木版画の絵札と、作品中の文章が記された字札で50作品が取り上げられている。賢治ファンならではの美しいカルタだった。

 掲載後、お礼状に「やまなし」の原画が添えられて届いた。蟹の親子が見上げる水面には、木の枝に引っかかった梨がぷかりと浮かぶ。

 これは、十二月の場面だった。「やまなし」の梨は、いま手にしているような晩生の種類かもしれない。蟹たちは、月明かりの中、流れるやまなしを踊るようにして追いかけていく。

 デザートに梨を味わったら、大事にしまってある版画を、小さな額に入れて枕元に飾ってみようか。梨の酒が自然にかもされるという水底の世界は、かぐわしくどこまでも透き通っている。夢に見れば、心の疲れと汚れがほどけていくかもしれない。(N)

【zak女の雄叫び】取材や日常…。女性記者21人が月ごとのキーワードで本音を綴るリレーコラムです。11月のお題は「晩」です。