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【ぴいぷる】劇作家・小説家、本谷有希子 「現実」より「スマホの画面の中」に居場所を求める危うさ (1/3ページ)

 都内のとあるビルの7階外階段での撮影。高所恐怖症のこちらはもぞもぞだが、ご本人、「高いところは好きですよ」と周囲を見渡している。

 このほど上梓した『静かに、ねぇ、静かに』(講談社)は、SNSなどインターネット社会に翻弄される人々をブラックに描いた3編を所収。すでに“重版出来”となっているが、意外にも2年前に受賞した芥川賞後、初の作品になる。

 「受賞のプレッシャーは半年で消えました。でも、1年ぐらい書いては捨て、書いては捨ての繰り返しで、最後まで書き切ることができないという悩みの方が根深かったですね。ついに、この内容はいま書きたいことではないのだと、見切りをつけて気晴らしに友人とマレーシアに旅行にいったんです」

 その旅が、今回の小説集を生み出すきっかけとなった。

 「目の前の景色そっちのけでスマホで写真を撮ったり、ホテルに帰ってもスマホの画面を見ながら、まるで他人の旅行の感想のように語り合っている、そんな時間があったんです。そのとき、何か不自然なことが起きているな、と思いました。帰りの飛行機の中で、そのことが小説になりそうな手応えみたいなものを感じ、最初の一文が出てくるんじゃないかという予感がした。だから帰国してすぐに書き始めました」

 マレーシアの経験を生かした「本当の旅」を最初に書いた。作中で同地を旅する40代近い男女3人は旅先の剣呑(けんのん)な状況の中でもラインでのやりとりを欠かさない…。

 「物語の語り手の“声”だけを聞いていると、若者に読めますが、それは彼ら自身の錯覚で、精神的にもある年齢で止まっていて、現実よりもスマホの画面の中に居場所を求めているんです。若い人が見なければいけない現実より、彼らが見る現実の方が可能性が狭まっている分、酷。だからそんな現実を異様なまでに見ようとしない。画面の自分たちは明るく幸せそうだということで満たされてしまう、そんな危うさを書きたかったんです」

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