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【ドクター和のニッポン臨終図巻】女優・市原悦子さん 最後まで声には力が宿っていた (2/2ページ)

 年を重ねると、声が掠(かす)れたり弱々しくなるものですが、市原さんの声には最後まで魔力が宿っていたように感じます。彼女の声でなければ、『日本昔ばなし』もあれだけのお化けアニメ番組になっていたか、どうか。

 昔話とはすなわち「死の物語」の伝承であると私は考えます。かぐや姫が月へ行くということ。浦島太郎が竜宮城で暮らすということ。龍の子太郎の母親はなぜ龍になったのか…死を暗示し、世の無常を子供に教える。それが昔話の役割だったはずです。

 今、わが国では死を見たことがないまま大人になる人が珍しくありません。医者や看護師にもそういう人は多く、終末期を診る医療現場は混乱するばかりです。『日本昔ばなし』の映像を小中学校でしっかり見せるだけでも、日本人の死生観は大きく変わるはず。学校の先生方、どうかよろしくご検討ください。

 空襲体験のある市原さんはさらに、「戦争童話」を朗読する仕事も長年続けられていました。

 死とは何か、平和とは何かを表現し続けた、偉大な女優さんのことをいつまでも忘れないでいたいと思います。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

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