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【ドクター和のニッポン臨終図巻】一流だから書けた病のリアリティー 小説家・橋本治さん (2/2ページ)

 〈頭蓋骨の眼の大きく穴の開いた空洞の下の部分-鼻の横のへっ込んだ部分が上顎洞で、ここに出来た癌です。牛で言う「牛頬肉ワイン煮込み」とか「ビール煮込み」の料理に使われる部分が癌です。もうこの先、そのテの料理は食べないでしょう〉(2018年10月号同連載より)

 発見時はもうステージ4でした。しかし橋本さんは先の血管炎で腎機能が低下していたため抗がん剤を使うことができず、がんの摘出手術を行うことになりました。顔の肉を切り取るのです。

 〈「ロン・パールマンが特殊メイクをして演じた顔をボロクソに殴られたボクサー」のようになりました〉(前同)

 どのがんが一番辛いか? と訊かれることがあります。どのがんも多少は辛いよ、と答えますが、顔の一部を失うこのがんには、また別の悲しみと痛みが伴います。術後に鏡を見て衝撃を受け、そのまま鬱状態となり自死する人もいます。しかし、その後も橋本さんは、辛い放射線治療に耐えながら、書く仕事をやめませんでした。

 〈癌はどこかで「他人事の病」だった。だから私は癌をバカにして、「さっさと治る」と思っていた。しかし、癌はもう他人事ではない〉(前同)

 一流の作家だから書けた病のリアリティー。このエッセーは今月、書籍化されるそうです。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

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