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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】「軟水醸造法」受け継ぎ、こだわりの麹づくり…「もろみと気長につきあう」 広島県「柄酒造」 (1/2ページ)

★「広島県 柄酒造」(上)

 広島県東広島市の南の端に、安芸津(あきつ)という町がある。瀬戸内海に面しており、安芸津港と大崎上島の大西港を、フェリーが片道35分で行き来している。

 ここで170年もの間、於多福(おたふく)と関西一を醸してきたのが柄(つか)酒造だ。蔵元の柄宣行社長は、27歳で家業を継ぎ、30年以上にわたり杜氏の下で酒をつくってきた。12年前に前杜氏の引退を受けて、自らが杜氏となった。

 安芸津といえば、酒造業界ではよく知られた人物の出身地だ。明治11(1878)年にこの地で酒造業を始めた三浦仙三郎は、創業後しばらくは腐造が続き、莫大な損失を出した。広島の水は軟水で、酵母の栄養分になるミネラルが少ない。だから発酵がうまくいかず、常に腐造の危険があるのだ。

 そのことに気づいた仙三郎は、軟水でもなんとか安全でおいしい酒ができないかと研究を重ねた。そして、麹菌を米の内部にまでしっかり行き渡らせること、低温で長期間じっくり発酵させることなどを柱とした、軟水醸造法を確立した。

 突きハゼ(=麹菌が米の中心に深く突き刺さった状態)の麹で長期低温発酵を行うことは、今の吟醸づくりに通じる画期的な方法で、軟水醸造法が広まった広島県は一躍銘醸地となった。灘、伏見と並び、東広島の西条が三大銘醸地と言われるようになったのはそのおかげなのだ。

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