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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】江戸時代から続く芯のある辛口 兵庫県「菊正宗」 (1/2ページ)

★兵庫県「菊正宗」(上)

 菊正宗(きくまさむね)は、灘の大手の中で、私が最も好きな酒だ。辛口は辛口でも、淡麗辛口とは違う、芯のある辛口。菊正宗では、これを「押し味」と表現する。それは江戸時代から続く、伝統の生?づくりによって醸される。

 創業は1659年、四代将軍家綱の時代である。現在の当主は12代嘉納治郎右衛門。ちなみに大河ドラマ「いだてん」で、役所広司演じる嘉納治五郎は、嘉納の分家出身の柔道家である。

 嘉納の姓は、約600年前、御影にある沢の井の水で酒をつくり、後醍醐天皇に献上したところ、ご嘉納になったので嘉納の姓を賜ったと言い伝えられている。現在仕込み水に使われているのは、15本の井戸から湧く宮水だ。江戸時代に発見された宮水は、日本の水の中では珍しく硬水に近い。酵母の栄養分が多いので、発酵が早く、アルコールになりやすい。だから灘酒はおしなべて辛口だ。

 中でも菊正宗は、「本流辛口」を標榜している。「料理を引き立て、飲み飽きしない辛口の酒こそ本流」という考え方で、山田錦と宮水と生?づくりによって、目いっぱい醸し出す伝統技法に基づいている。

 自然に乳酸菌を発生させる生?(きもと)は、人工的に乳酸菌を添加する現代の速醸?と違い、強く純粋な酵母が育つ。弱い酵母はアルコール度が17%くらいから死に始めるので雑味が多くなるが、強い酵母はアルコール度が20%近くなっても死滅せず、スッキリとした辛口酒ができるのだ。また、タンパク質がアミノ酸に分解する前のペプチドの割合が高いため、独特の「押し味」が出る。

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