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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】樽職人雇い伝統香る「下り酒」 兵庫県「菊正宗」 (1/2ページ)

★兵庫県「菊正宗」(下)

 灘酒の中でも「本流辛口」の菊正宗(きくまさむね)は、芯がしっかりとした「押し味」に魅力がある。それは山田錦と宮水、そして江戸時代から続く生もとづくりによって、目いっぱい醸し出す伝統技法に基づいている。

 江戸時代の大量輸送は、陸運ではなく水運だった。港に恵まれた灘の酒は、樽廻船で江戸に運ばれ、「下り酒」と呼ばれ人気を博したという。後に「くだらない」の語源になった下り酒だが、それを運ぶために使われた容器が樽。だから江戸時代の酒は、すべて樽香のついた樽酒だった。

 しかし明治以降、瓶が普及すると、樽酒は徐々に姿を消していった。このことを憂い、伝統の下り酒を復活させたのが、菊正宗の瓶詰樽酒、通称「樽びん」だ。これは、樽に一定期間詰めて樽香をまとわせた酒を、瓶に詰めて販売するという画期的な酒。2016年には、発売50周年を記念して、樽酒マイスターファクトリー(神戸市東灘区)が、菊正宗酒蔵記念館の隣にオープンした。

 樽酒には良質の酒樽が欠かせないが、年々減り続ける樽職人が悩みのタネだった。そこで菊正宗は樽職人3人を雇い入れ、自らの手で樽づくりを始めたのだ。だから樽酒マイスターファクトリーは、ミュージアムではない。彼らが仕事をする工房なのだ。

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