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【ぶらり、ぶんがく。本と歩く】誰もいない峠に首なし石像…藪から出てきたのは!? 中里介山『大菩薩峠』 (1/2ページ)

★中里介山「大菩薩峠」 山梨県甲州市 大菩薩峠

 〈大菩薩峠は江戸を西に距る三十里、甲州裏街道が甲斐国東山梨郡萩原村に入って、その最も高く最も険しきところ、上下八里にまたがる難所がそれです〉

 中里介山(1885~1944年)の時代小説「大菩薩峠」は、そんなふうに語り始められる。ときは幕末。深山の峠道を若い武士が一人登ってくる。色白で細面の男は、後から登ってきた巡礼の老人をいきなり斬殺する。この非道な辻斬りこそ、主人公の机竜之助だ。

 「音無しの構え」という無敗の術を使う竜之助は、破天荒な剣豪。奉納試合での慈悲を願ってきた対戦相手の内縁の妻、お浜を手ごめにしたあげく、試合では相手を叩き殺し、そのうちにお浜を妻として暮らす。いつの間にか新徴組の一員になったりする。辻斬りもやめない。無頼派のエンタメ小説は、大正2年から新聞で連載されて人気を集め、約28年も書き継がれてなお未完という超大作となった。大菩薩峠が出てくるシーンはそう多くないが、タイトルになっているので、読者は事あるごとに主人公の悪逆を思い出すことになる。

 〈「与八さん、いつか一度あの大菩薩峠へ、わたしをつれて行って下さいな」「あんな山奥へかい」「わたしは、もう一ぺんあの峠へ行ってみたい」〉

 私も行ってみたい。与八さんはいないから、一人で青梅街道へマイカーを走らせた。奥多摩から一度甲州市に抜けて登り返し、市営駐車場やバス停がある上日川峠から入山。都内は晴天の猛暑日だったのに、峠は小雨模様。視界も悪く、人影はまばらだった。日本百名山のひとつ、大菩薩嶺(2057メートル)への登山路にもかかわらず、静まり返っている。おかげで山奥の雰囲気をたっぷり味わえた。

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