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【パリッコの「酒飲み12カ月」】ビールがうまい…夕立のプールと冷奴

 強烈な日差しが脳天を焼くような猛暑日が何日か続いた。朝、家から徒歩数分の仕事場に行くだけで汗だくになる。日光を浴びる全身がジリジリと熱い。こう熱いと、プールにでも行きなくなるな。なにもデッキチェアが併設されたホテルのプールや、遊園地のプールじゃなくていい。区民プールでじゅうぶん。あぁ、何年行ってないかな、プール……。と考えていたらふと気づいた。あれ? 別に今日にでも行けるじゃん! と。

 僕は自営業者なので、もちろんやらなければいけない仕事はあるけれど、時間的な束縛はない。仕事場の近くには「石神井プール」がある。なんなら今すぐにだってプールへ飛び込める身なのだ。が、そこは大人。この思いつきによるワクワクを原動力に、夕方までは仕事をがんばる。16時頃、書いていた原稿がいったん一段落。仕事場を出て、家へ寄ってクローゼットの奥から何年も使っていなかった水着をひっぱりだし、自転車に乗って石神井プールへと向かった。

 実家が隣駅なので、中学生くらいの頃まではたまに来ていたプールだが、すっかりリニューアルされて勝手のわからないまま、とりあえず受付に向かう。大人一般1時間200円也。発券機は自動化され、ジムのような温水シャワーも完備され、まるで見知らぬ施設のようだけど、肝心のプール自体は基本当時のままだった。ひょうたん型の浅い子供用プールと、大人用の50メートルプールがあるだけ。ちょうど清掃休憩中らしく、あったあった、そういうの、と、すでに懐かしい。時間が遅いからか、日に焼けた小学生がちらほらと、屈強な肉体を真っ黒に日焼けさせた同世代くらいの男性が3人いるのみ。自分があきらかにこの場で一番なまっちろい体をしているのが恥ずかしく、早く水に入りたい。そもそも、この屈強な男たちはどういう人物なんだろうか。

 休憩が終わり、いよいよプールタイム。どれだけ冷たいのだろうかとそろそろ足を入れると、永遠に入っていられそうなぬるさで気持ちいい。勢い良く壁を蹴り、平泳ぎを始める。なんとなく、今日は控えめに、50メートルを3往復もすればじゅうぶんだろうと思っていたんだけど、とんでもない。足を着かずに向こう岸に着くだけで精一杯だ。泳ぎながらどんどん呼吸が荒くなっていくのがわかる。日頃の運動不足よ。

 往復は潔くあきらめ、遊泳レーンからフリーレーンへと移動。仰向けになってただゆったり漂うことにした。水面から出ているのは顔だけで、聞こえるのは自分の呼吸音とゴーという水の音だけ。あ、これでいいな。いつまでもこうしていられる……。と、思った矢先、水の中にまで音が届くほどの雷が近くで鳴った。続いてものすごい夕立。監視員から、「みなさんいったんプールから出てください」のアナウンス。水に入ってまだ10分くらいな気がするけど、今日はまぁ、このくらいでいいか……。

 温水シャワーを浴びて着替え、おわびの次回無料券を受け取り、駐輪場へ向かう。当初思い描いていた計画としては、心地よい疲労感に包まれた体で公園の池のほとりの茶屋「豊島屋」へ行き、蝉時雨を聞きながらビールと味噌おでん。だったのだけど、今や「雨宿りさえできればいい」という気持ちで豊島屋へ向かっている。が、到着してみると、すでに店じまい後。うまくいかないなぁ。こうなったらもう……帰ろ。

 自宅で再びシャワーを浴びて雨に濡れた体をさっぱりさせる。何かつまみになるものがないか冷蔵庫を物色すると、お、豆腐があるな。上等上等。よく冷えたビールをプシュッと開け、缶のままグビグビ。届いたまま読めていなかった、自分の連載記事が載っている雑誌などをぼーっと眺めながら、ダシ醤油をかけた冷奴をちびちび。

 気付けば窓の外にはすっかり青空が広がっている。部屋のぜんぶの窓を開け放すと、夕立で冷やされた夏の風が心地よく通り、エアコンはいらないくらいだ。今日のプール計画は全面的にガタガタだったけど、まぁ、今このビールがうまいから、いっか。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。

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