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【パリッコの「酒飲み12カ月」】いつかその日がやってくるまで、意地でも楽しく飲み続けていよう

 いよいよ最終回を書くときがやってきた。つまり、連載開始から1年が経ったということだ。長かったような短かったような1年間。何より、コロナ禍にある現在の状況など、当初は当然、想像もしていなかった。ただのんきに、日々飲んでいる酒にまつわることを書いていこうと思っていた。まさか最終回を書くにあたり、ふらりと飲み屋に行くことばかりか、気軽に家の外に出て季節の風を感じることすらも自由にできない状況になっているとは……。

 初回にも書いたが、この連載の依頼は、担当編集であるYさんと、評論家の大谷能生さんと3人で、新宿中央公園の芝生の上で酒を飲んだ時にいただいた。4月中頃のよく晴れた日だったから、日差しやそよ風がものすごく気持ち良かったことを覚えている。その日はそのあとも角打ちやバーにハシゴし、したたかに酔っぱらった。

 それから、梅雨の雨が降るなか公園の東屋で飲み、徹夜明けに銭湯からの角打ちで飲み、清瀬駅前の小さな中華屋で朝から飲み、区民プールでひと泳ぎしたあとに飲み、ふと思い立って逗子の海に出かけていって飲み、昼下がりの砂町銀座商店街で飲み、日比谷から神田にかけて「酒さんぽ」をし、タクシーに忘れたスマホを受け取りに行った南千住の酒場に吸いこまれ、大好きなタイ料理屋で忘年会をし、大阪でハシゴ酒をし、ふらりと入った北千住の酒場で偶然会った酒飲みの先輩たちと乾杯し、公園で梅見酒をし、佃島でレバーフライと缶チューハイを飲んだりしたことなんかを、徒然に書き綴ってきた。どれも楽しく、心地よく、とても大切な思い出だ。そんな何気ないことが今や夢物語になってしまった。本当にすごい時代になったものだと思う。

 が、世の中がこんなことになってしまったからといって、日々を生きるための希望や幸せが消滅してしまったかというと、そんなことはまったくないことも確信できた。

 自宅にこもりつつ、家飲みをどう充実させるかをあれこれ考え、工夫を凝らすことは心底楽しい。健康維持のための散歩や、スーパーで買い物ができることがこんなにもありがたいとも、きっとこんな状況にならなければ実感せずにいたはずだ。さらには、ほんの数十年でよくぞここまで発達してくれていたと感謝するほかない、インターネットの存在。これがあるから、いつだって思いたったときに友達に連絡し、お互いに遠隔地で飲みながらくだらない話をして笑いあったりもできる。

 先はまったく読めないけれど、コロナはいつか必ず収束するだろう。またなんにも考えず、夜の街でへらへらと酒が飲める日を楽しみに、そのときを待つしかない。

 ところで最近、自分に酒飲みとしての新たな意地のようなものが芽生えはじめたのを感じている。それは、この状況が落ちつく日がいつになろうと、それまで意地でも、可能な範囲で楽しく飲み続けてやろうという強い想いだ。酒にすがるとか、酒に逃げるとかそういうことではなく、あくまで前向きに楽しんでいく。楽観的すぎる言いかたになるが、もしかしたら自分にとって、酒やそれをとりまく文化をさらに好きになるための期間が今なのかもしれない、なんて。

 さて、今夜の晩酌を楽しみに、今日も粛々と自分のすべきことをやっていこう。いつもより時間があるから、若干飲みすぎてしまいがちなことにだけ、とても注意が必要ではあるけれど。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。