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老親の気分を害さず、近況を聞き出す方法

 老親の今後が気になるし、何かしら話をしておきたい。でも、何から切り出していいかわからないと躊躇(ちゅうちょ)する声もよく耳にする。「何か困ってることはない?」と聞くのも、ひとつの方法だが、親が元気なうちは「特にない」で話が終わってしまうことも少なくない。では、どうするか。

 会話の主導権を握ろうとするのをやめ、親が話したいことを話してもらうという方法がある。近所の噂話に病気への不安、家族に対する愚痴…と、とりとめもない話が続き、イライラするかもしれない。だが、単なるムダ話に思える会話の中でも、案外重要な情報が語られていることがある。

 親は今、誰とかかわり、どのような日常生活を送っているのか。何に不安を覚え、どのようにやり過ごしているのか。その暮らしぶりを知ることは、認知症の予兆をキャッチする助けもなる。

 我々は想像以上に親のことを知らないものだ。わたし自身も介護がはじまったとき、そう痛感した。生年月日はもちろん、身長や体重を医療機関で聞かれてもすぐには答えられず、まごついた。日帰りで利用する通所介護(デイサービス)や通所リハビリ(デイケア)を検討するにあたっては「趣味(どんなことが好きか)」「好きな食べ物」などをケアマネジャーに聞かれたが、何ひとつ即答できなかった。

 幸いなことに義父母の場合、認知症はあるものの、日常会話はつつがなくでき、介護が始まった後も情報収集が可能だった。たとえば、義父はチョコレートがかかったデニッシュパンが大好きで、義母はアップルパイに目がない。こうした好物の情報にはその後、何度も助けられた。

 あるとき、義父が体調を崩し、“一時療養”という名目で、夫婦そろって有料老人ホームに入所することになった。入所の前日、準備を手伝うために義父母の自宅を訪れると、ふたりとも落ち着かない様子だった。

 義母は暗い表情で「せっかく来てくれて申し訳ないけど、買い物には行けない」と繰り返し訴える(ちなみに、買い物の予定はなかった)。一方、義父は玄関に座り、「真奈美さんの準備ができたら、いつでも出発できます」と張り切っていた。

 施設に出発するのは明日だと何度か説明したが、耳に入らないようだった。

 ここで登場するのが2人の好物である。あらかじめ購入しておいたチョコレートデニッシュパンとアップルパイを見せ、「おやつにしましょう」と声をかける。「僕はこのチョコレートがかかっているパンをもらおうかな」「わたしはこのアップルパイがいいわ」と義父母は大喜び。よし、気がそれた! 好物のおかげでピリピリした雰囲気が払拭され、2人も落ち着いた。ようやく入所準備を始めることができたのである。

 こうした些細な情報が介護の場面で生きてくる。それを頭の片隅に置きながら、情報収集に励みたい。

 ■島影真奈美(しまかげ・まなみ) ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。「ホテル業界の高齢者雇用」をテーマに論文執筆を進めている。

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