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人口激減でも経済は成長する!? 地方文化の根付きが成長生み出す

 筆者郷里の高知の山里。スペインを本拠に欧州で活躍する女流ピアニストの西澤安澄さんが東京での仕事を急遽(きゅうきょ)切り上げて、不眠不休でやってきてくれた。山と川ばかりでどうなることかと、迎える一同ひやひやしたが、杞憂(きゆう)だった。彼女は導かれるまま深山幽谷に踏み入れ、瀑布(ばくふ)に近づく。轟音(ごうおん)で制止の声がかき消され、ずぶぬれだ。宿泊先の民家に落ち着くや、「パワーをもらったよ」。

 子供たちが都会に去り、20年以上もの間、弾き手がなかった鍵盤が魔法にかかったかのように蘇る。土佐は世帯当たりの飲酒量日本一。何事かと駆けつけた地元民三十数人はいつもと違って酒ではなく、スペインの流麗でダイナミックなピアノ曲に酔いしれた。

 帰京後、西澤さんのコメントは「なんて不思議な土地と人々なんでしょう。東京に帰りたくなくなってしまう危険な隠れ里ですね」。

 実のところ、高知の山村人口はイノシシや鹿の数よりもはるかに少ない。同県では年間約2万頭の鹿が駆除されているが、その数はなお増え続けている。対照的に、県人口は2、3年間で約2万人減っている。

 2006年には80万人近かった人口は今、70万人を切った。17年の前年比人口減少率(1000人当たり)は全国平均マイナス1・8人に対し、高知県はマイナス10・1人とすさまじい。

 若年層や労働適齢人口層割合の少なさ、高齢者の比率の高さも県別比較でビリをうかがう。

 読者の多くは「人口が減るから経済はマイナス成長になっても仕方ない」という財務省御用エコノミストたちの言を思い出すだろう。経済成長が無理だから、増える社会保障財源確保のためには家計消費を減らす消費税増税しかないと。

 人口減では経済は成長しないのか。内閣府がまとめる都道府県別の県内総生産版国内総生産(GDP)によると、15年度の高知県経済成長率は実質1・4%、名目3%でいずれも国全体の1・3%、2・8%を上回っているではないか。同県は公共投資に頼りがちで、業種別には建設業の景況に反映する。政府は13年度に公共投資で大盤振る舞いしたあと、一挙に緊縮に転じた。13年度の同県建設業生産は実質で前年度比22・3%増になったあと、失速し、15年度はわずかに0・5%となった。窮状を救ったのが農林水産業9・7%増、宿泊・サービス業7・8%増である。

 鰹の一本釣りで知られる漁師町では、東京から自然に魅せられて移住してきた主婦が市場に出せなかった魚を猫用に加工し、全国からの注文にてんてこまいだ。鹿とイノシシに取り囲まれる山里、大豊町の元郵便局長、小森将義さん(73)は退職金を投入して犬用の乾燥鹿肉加工場を建設、自家ブランドで全国展開をめざす。清流仁淀川と土佐和紙で知られるいの町には海外からも手すき体験を求める観光客が相次ぐ。

 一つ一つの生産規模は極小だが、しっかりと根付いた地方文化こそが成長を生み出す。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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