zakzak

記事詳細

【ぴいぷる】柿澤勇人、挑み続ける芝居の迷宮 人間国宝の家系に育ち、蜷川幸雄氏から“地獄の薫陶” 舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」主演

 「マネジャーから居酒屋に呼ばれ、怒られるのかなと思ったら『三谷(幸喜)さんが一緒にやりたがっている』と。信じられなかったですね」

 主演する舞台のチケットは即日完売、いま最も勢いがいい次世代のミュージカルスターだ。この若き才能に名監督から願ってもみないオファーが来た。

 きっかけは、昨年出演したミュージカル「メリー・ポピンズ」。主人公の親友、バート役の熱演だった。

 「風変わりで、天真爛漫で、天才肌で、自己中心的で、ナイーブで。心に闇を秘める若き名探偵(ホームズ)を演じられるのは、若い頃のレオナルド・ディカプリオか、今の柿澤さん」。三谷監督にこう言わしめたほど。

 この次世代のスターを主人公として描く“三谷劇場”は、舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」(9月~)。柿澤は、相棒となるジョン・H・ワトソン(佐藤二朗)と出会い、事件に挑む若き日のホームズを演じる。

 ミュージカルとは違うストレート・プレイ(会話劇)の主演は初めてだが、「歌と踊りという技術がないところで、いかに戦えるかは自分に課してきたこと」と気合十分。

 「(海外ドラマの)『SHERLOCK/シャーロック』を見たり、小説を読んだり。癖や特技、しぐさは勉強になる。でも、あまり既存の資料には捉われず、自分なりのホームズを演じたい」と語る。

 曾祖父の清元志寿太夫は浄瑠璃の語り手、祖父の清元栄三郎は三味線奏者。ともに人間国宝という家系に育つ。

 「曾祖父はお酒が好きでよく飲みましたが、翌日の舞台はちゃんと声も出る。歌舞伎座で歌えば前の通りまで聞こえたという伝説もあります。僕も朝まで飲んでも喉がつぶれないのは、曾祖父のおかげかもしれません」

 子供の頃の夢はサッカー選手だった。強豪校の都立駒場高校へ進学し、芝居など興味もなかった。それが高校の課外授業で劇団四季の「ライオンキング」を観劇した際、衝撃が走った。

 「こんな世界があるんだ…やってみたい」

 ただ、芸の厳しさを知る家族には猛反対された。「最初の受験でダメなら諦める」と説得し、東京都立大学(現首都大学東京)を休学。舞台芸術学院で演劇を学び、見事、劇団四季に入団する。多くの作品で主演を務め、2009年に退団。大学に復学し、表象言語を学んだ。

 転機は12年。村上春樹原作で蜷川幸雄監督が演出した舞台「海辺のカフカ」だった。

 「蜷川さんに鍛えてもらいたくて、稽古場に毎日に通って『出させてください』と直談判しました。最初は渋られたけど、ある日、渋谷パルコの地下にあった本屋で、たまたま蜷川さんと会って。『地下で会ったし、出させてやるか』と。でも(稽古は)地獄でした」

 3年間、劇団四季で積んだスキルは通用せず、蜷川氏から「才能なし、ヘタクソ、辞めちまえっ」と叱責の日々。

 「心が折れます。でも、初演の千秋楽の時、『お前よくなったな』と。あれだけ罵倒したのに…。僕も蜷川さんに褒められたかったんでしょうね」としみじみ語る。

 役者としてあるべき姿を学んだのは大きく、「芝居をやる上で大事なのは演出されるじゃなく、自分で演出する。初演なら衣装、靴にもこだわる。そこで何もせず、僕を料理してくださいという時点で“蜷川カンパニー”では負け」。貪欲に芝居、演劇とは何かを求め、自分を甘やかさないことを体で覚えた。

 自分としての「理想の芝居」もつかみつつある?

 「全然です。面白い芝居とは何か。それは一生、追求していくこと」。今後の目標は「海外で日本の作品を上演したい。ブロードウェー(ニューヨーク)やウエストエンド(ロンドン)が全てではなく、日本の舞台も面白い。世界5都市で上演された『海辺のカフカ』は、日本より盛り上がっていたので」。

 答えなき芝居という迷宮に挑み続ける姿に、ホームズが重なった。(ペン・田中一毅 カメラ・南雲都)

 ■三谷幸喜作・演出9月から公演

 三谷幸喜監督が作・演出する新作舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」は、ほかに広瀬アリス、八木亜希子らが出演。公演は、9月1~29日まで東京・世田谷パブリックシアター▽10月3~6日まで大阪・森ノ宮ピロティホール▽10月12~13日に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールで。

 ■柿澤勇人(かきざわ・はやと) 俳優。1987年10月12日生まれ、31歳。神奈川県出身。2007年に劇団四季の養成所に入所。ミュージカル「ライオンキング」の主演も務めた。退団後、「スリル・ミー」「フランケンシュタイン」「デスノート THE MUSICAL」などミュージカルや舞台の話題作に出演。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」や映画「猫は抱くもの」(18年)など活躍の場を広げている。

 次回(13日)は映画監督の矢口史靖さんです

関連ニュース

アクセスランキング