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【サム・ペキンパー監督 バイオレンスの系譜】今の時代を反映したような…フツーの人がキレると怖い見本のような作品 「わらの犬」(1971年)

 フツーの人がキレると怖いぞ~という見本のような作品だ。英小説「トレンチャー農場の包囲」が原作。主演は名優、ダスティン・ホフマンだ。

 「わらの犬」というタイトルは、中国の思想家・老子の「道徳経」からとられたもの。意味は、「人間の行動は天から見れば身を守るために焼くわらの犬のようなちっぽけな存在にすぎない」とおごる人間をいましめる考えを示唆している。

 最初、英ノーベル賞作家、ハロルド・ピンターに脚本を依頼したところ、内容が過激すぎると拒否された。

 米数学者のデビッド・サムナー(D・ホフマン)は都会の喧騒を嫌っていた。そこで妻エイミー(スーザン・ジョージ)の出身地である英コーンウオール州の片田舎に引っ越しをする。

 当然、都会人の彼らは注目の的。納屋を修理させ、村人たちと仲良くやってゆこうと努力するサムナーだがどこか田舎者を見下すところがあるせいか、嫌がらせにあう。そこへ結婚前のエイミーと肉体関係にあった男ベナーと出会ったことから事件が。ベナーはサムナーを狩りに誘い出し、そのすきにエイミーをレイプしてしまう。

 そんな中、村の娘エマが障害者のジョンを誘惑して納屋に隠れる。娘を捜す父親たちの足音に思わず声をあげたエマをジョンは殺してしまう。ジョンはサムナーの家にかくまわれるが村人たちはジョンを出せと迫る。引き渡せばリンチに遭うことが分かっているサムナーは闘う決断をする。

 まさに今の時代を反映したような映画だ。イカレたキャラクターばかりがそろい、唯一まともと思えるサムナーが逆切れするさまは新聞記事で目にするものと同じパターン。それにしても争いを避け、暴力を否定する人間が一転して戦闘力をアップしていくところは悟空かベジータのようで痛快でもある。

 完成までアクシデント続きだった。撮影監督は意見の対立で何人も交代し、ペキンパー自身も肺炎にかかって入院、撮影が中断された。製作サイドはハッピーエンドを望んだが、ペキンパーは頑として譲らなかった。

 2011年にはジェームス・マースデンとケイト・ボズワースでアメリカに舞台を移してリメークされた。

 園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』はこの映画のポスター(ホフマンがレンズの割れたメガネをかけたドアップの顔)にインスパイアされたそうだ。なるほどそっくり。(望月苑巳)

 ■サム・ペキンパー 映画監督。1925年2月21日生まれ、米カリフォルニア州出身。55年、テレビドラマ『ガンスモーク』で脚本家、監督デビュー。映画の監督デビューは『荒野のガンマン』(61年)。84年12月28日、心不全のため59歳で死去。

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