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【ぴいぷる】医師と作家、二刀流で切り込む医療の闇 “小説界の手塚治虫”久坂部羊さん「日本人は死を恐れすぎ」 (1/2ページ)

 人呼んで“小説界の手塚治虫”。

 漫画界の巨匠・手塚と同じ大阪大学医学部を卒業後、現役医師として医療をテーマにした小説を書き続けている。

 「医療の現場は過酷で不条理。きれいごとだけではすまされません。しかし、たとえ医学界のみんながそう思っていたとしても、現場の医師が、それを口に出して言うことは決して許されないのです」

 だからこそ、漫画家として手塚がロングセラーの傑作「ブラック・ジャック」で医療の闇を描いたように、自分は小説家として医療現場の闇を描く…。そんな覚悟でメスとペンを持ち替えてきた。

 新作「介護士K」(KADOKAWA)は、高齢化が進む日本の介護問題に斬り込み、介護現場の実態を浮き彫りにする骨太の社会派ミステリー。

 有料老人ホームで、入居者の転落死亡事故が相次いで発生。ホーム側は自殺だと主張するが、取材を始めたルポライターの美和は介護士、恭平に疑いの目を向ける…。

 2014年、川崎市の有料老人ホームで入所者3人が相次いで転落死した実在の事件を彷彿とさせる。

 「殺人は許されないが、理由がある。果たして安楽死は殺人なのか」

 医師だった父が13年、87歳で亡くなった。85歳でがんを告知された父は驚くべきことに「しめた、これで長生きせずにすむ」と喜んだ。手術を受けさせようとしたら、「なぜ邪魔をする、と怒られたんです」と苦笑する。延命治療の常識を覆させられたという。

 独特の死生観から医療現場を生々しく描く作風は映像界からも注目を集め、15年には原作2作が相次いでドラマ化。「無痛~診える眼~」(フジ系)は、外見だけで病状が分かる医師を西島秀俊が演じ、「破裂」(NHK)は、老化した心臓を若返らせる治療法を確立した医師を椎名桔平が演じて話題となった。

 ただ両作とも出版から映像化まで約10年かかっている。

 「テーマが問題視され、映像化がずっと見送られてきたんですよ」

 実は「破裂」は、医学部卒の大森一樹監督が04年の出版当時、映画化を企画したが頓挫したいわく付きの問題作だ。

 「超高齢化社会を食い止めるために高齢者を極秘裏に抹殺するというテーマが当時はタブー視されたんです」

 医師である父の姿を見ながら育ち、幼いころから自然に医師を目指していた。だが、高校時代に読書好きの友人の影響でロシア文学に魅了され、次第に作家に憧れるように。医師と平行し純文学を書き続けてきたが、なかなか芽が出ず、テーマを大衆文学の医療ミステリーへ変えたところ、ヒット作へとつながった。

 麻酔科医、外科医を経て外務省の医務官となり、サウジアラビア、オーストリア、パプアニューギニアの大使館などで9年間勤務した異色の経歴を持つ。

 「サウジの人たちは死を恐れず、だから自爆テロも辞さない。ウィーンでは死をタブー視せず、葬儀の博物館まであります。ニューギニアは呪術に頼って死を自然に受け入れる…。国によって死生観はまったく違うのです。日本人は死を恐れすぎだと思います」

 異色のキャリアは、かつてない医療ミステリーを繰り出す武器だ。

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