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【ぴいぷる】この先もずっと「書きたい好奇心」 認知症の母を介護、自らは乳がん手術後の朗報 吉川英治文学賞受賞・篠田節子 (1/2ページ)

 スレンダーな体形。いかにも軽やかに作家人生を送ってきたかのように見えるが、さにあらず。その歩みは努力、研鑽のたまものでもある。

 「デビューしちゃったら走り続けて、気がついたら30年ですねぇ」

 走り続けて今年、『鏡の背面』(集英社)で、主にエンタメ小説、歴史小説など大衆小説のベテランに贈られる吉川英治文学賞を受賞した。

 文壇での栄達の一方、作家とて人の子、親はいるし病気にもなる。20年前から認知症の母の介護に追われ、外出もままならない日々。昨年3月には自らに乳がんが見つかり、切除手術を受けた。

 仕事と自らの予後への対処、母親の介護対策と多忙を極めるなか、飛び込んできた朗報だった。

 「最初、何かの候補に残ったのかと思ったら受賞なので、耳を疑いました」

 吉川英治文学賞はいきなり受賞者本人への通知となる。

 「しかも急に決まった母の介護施設への入居日と、賞の記者会見が同じ日(3月上旬)だったんですよ。その日、どう動けばいいのって(笑)」

 そんな風に慌てふためいていたとき、食事の支度ができた…と連絡が入った。マンション上階の仕事場から階下の自宅に戻ると、テーブルにシャンパンが。26歳から連れ添い、生活面のサポートもしてくれている4歳年上の夫の気遣いだった。

 「何かいいことがあったら開けようねと、取っておいたシャンパンを出してきてくれました。人心地着いて酔っ払っちゃったのですが、お世話になった編集者の方に片っ端から電話をかけて報告しました」

 編集者は作家と一緒に走ってきた仲間でもある。彼らとともに世に送り出してきたのはホラー、SF、男性優位社会で格闘するキャリアウーマンなど幅広い。

 「いつも、過去の作品を乗り越えていける作品を書いていきたいと思っていました。『鏡の背面』は、ある種の心理小説。実験小説的な意味合いもあってその作品での受賞は意外であり、また大変うれしいことです」

 小説を書き始めたのは、東京・八王子市役所勤務時代のこと。

 「広報紙の編集に関われたらいいなと思って、カルチャースクールに通い始めたんです」

 文章を学ぶつもりが、通える日に小説教室しかなく、そこで推理作家の多岐川恭さんと出会い、小説を書き始めた。多岐川さんの退任後、ミステリー作家の山村正夫さんが講師を務める別のカルチャースクールに通う。

 ■「還暦過ぎてもなかなか大人になってないな、成熟し損なったというか」

 5年後にデビューし、すぐに市役所を退職、専業作家となった。

 「公務員の13年間を生かした作品ってあるんですが、自分のフィールドから知らない世界へと興味と関心を広げて書いてました。自分の体験を超えたところで、いかに物語を紡いでいけるかというのが、作品世界を大きくする意味でも必要かなと」

 意外にも「スランプは意識したことがないんです」と言う。

 「ただ、一作書こうと思うごとに、その世界を何も知らないので、壁に囲まれるような気分になります。壁とは(書こうとする分野の)法律であったり、制度などという事実の壁で、どちらを向いても絶壁。はい上がるけど進まない。でも、なぜか必ずロープを垂らしてくれる人がいるんです。専門家の方が登る道筋を教えてくれました」

 かくて物語の全体像が見えてくる。そうした研鑽のうち、気がつけば還暦を過ぎていた。

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