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《zak女の雄叫び お題は「選ぶ」》自分で選ぶ葬儀 幸せな生前葬 

 「生前葬をやるから、良かったらおいで」

 松江市に住む叔父(77)からそんな誘いがあり、7月の三連休に行ってきた。ただの生前葬ではない。同市の約700人収容の大ホールで、有料のリサイタルを開いたのだ。

 叔父は音楽教師を勤め上げ、複数の合唱団の指導者として地元で活躍している。声楽家として演奏活動もしていることは今回初めて知った。記者にとって叔父の十八番は「コモエスタ赤坂」であり、ブラームスの「永遠の愛」なんて1度も聴いたことがなかったのだ。

 しかし、演奏は素晴らしかった。ピアノ伴奏にのせ、マイクなしで大ホールに響くつややかで明るいバリトンに聞きほれた。会場も次第に熱を帯び、アンコールに有名な「帰れソレントへ」の前奏が始まると、大きな拍手と歓声。総じて控えめな島根の中高年が観客席でノリノリになった。

 さらに、終演後のお清めならぬパーティーには百人以上が参加。歌あり、プロのトランペット演奏あり、果てはこんなド派手なイベントの開催を許してくれた叔母に叔父がお礼を言うサプライズあり…。葬儀どころか結婚式のような幸せな気分を分けてもらった。

 「終活」という言葉が普及し、生前葬や散骨など、さまざまなスタイルが検討できるようになった。俳優の唐沢寿明さんが、妻で女優の山口智子さんから「自分が死んだら散骨してほしい」と言われたことをテレビ番組で明かし、話題になったのも関心の高さの表れだろう。

 ただ、実行できるかどうかは話が別だ。葬祭事業などを展開するティア(名古屋市)が、全国の40歳以上の男女1000人を対象に昨年12月に行った意識調査では、「自分の葬儀をしてもらいたくない人」が52・5%と過半数を占め、年々増加傾向。一方で「配偶者の葬儀をしたい人」は80・4%、「親の葬儀をしたい人」は79・7%と極めて高く、ここ数年ほとんど変わらないのだという。

 「自分の葬儀はしなくてもよいが、大切な人の葬儀はやってあげたい」。その理由は「気持ちの区切り」「供養」が上位で、葬儀が残された者のための儀式であることがよく分かる。故人に選択の余地はなく、遺族が選んだやり方で送られるのだろう。

 それを考えると、元気なうちに好きなように生前葬を作り上げ、周囲にお礼を言えた叔父はなんと幸せなことか。本当に亡くなったら、やっぱり普通に葬儀が行われるのだろう。だが、「やり切った。明日死ぬかもしれん」といっていた叔父も「生前葬なんてまだ早い」「もっと聴きたい」との観客の声援に後押しされて、その時はまだまだ先になりそう。生前葬にはかえって寿命が延びる効果もあるようだ。(ゆ)

【zak女の雄叫び】取材や日常…。女性記者21人が月ごとのキーワードで本音を綴るリレーコラムです。7月のお題は「選ぶ」です。

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