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【ぴいぷる】ノンフィクション作家・評論家 塩田潮 「虫の眼と鳥の目」で東京五輪が生み出す“新しい日本”追跡 (1/2ページ)

 ■細部を掘り出す力 時代や歴史の視点

 取材と執筆で心がけているのは「虫の眼(め)と鳥の目」である。

 「ノンフィクションの書き手は、事件の病巣や物や人の動きなど細部を掘り出す力が要求されます。虫の眼の仕事ですね。同時に時代や歴史といった(俯瞰的な)視点から、いま起きている事象が時代の何をどう体現しているかをわしづかみにする力、つまり鳥の目も必要です。両方を持っていないと物事の本質がつかめない。企画を構想する力の源泉です」

 いま東京五輪を通して国、東京都、スポーツ界などの軌跡をたどった自著『東京は燃えたか』が耳目を集めている。

 「オリンピックは日本と日本人をどう変えたか、またオリンピックでどう変わるのか、僕も興味津々でした」

 2020年、日本で2度目となる夏季五輪が開催される。1回目は56年前の1964年。当時、日本経済は池田勇人内閣の「所得倍増」のかけ声のもと、高度経済成長を実現。五輪は「黄金の60年代」と呼ばれた時代を生み出す強大なエンジンとして機能した。

 だが、日本が初めて五輪招致に動いたのは戦前の1930年代だ。IOCベルリン総会でヘルシンキに勝ち、40年開催を手にしながら、返上せざるを得なかった。軍部の台頭で、外では満州事変、内では五・一五事件、国際連盟脱退をはさんで二・二六事件が勃発。戦時体制となり、五輪どころではなくなったのだ。極東の小国・日本を世界の人々に知ってもらう千載一遇の機会ととらえた人々は大きく落胆した。

 ■日本は世界に何をアピールするのか

 「でも、64年開催のオリンピックで、日本は敗戦から復興して立ち直った姿を世界に示しました。では、来年開催のオリンピックで、日本は何を世界にアピールするのか。東日本大震災後の復興を、という見方もあります。僕は高齢化・人口減少の日本の最適社会を実現する“新しい国づくり”を目指すのがいいと思う。64年は『黄金時代』でしたから、今度は『シルバー時代』の最適社会を実現するのです」

 五輪は政争の具にされがちとの批判もつきまとうが…。

 「取材を通して知ったのは、今回は『東京オリンピックをやらなければメダル獲得の低落を阻止できない』という関係者の悲痛な声が原動力となったことです。政治はこのチャンスを活用して新しい国づくりに役立てることができるかどうかが問われているのです」

 政治や経済の仕組みに関心を持ったのは、生まれ育った時代、環境と無縁ではなかった。

 1回目の五輪に先立つ18年前、高知県のガリ版印刷原紙製造の町工場を経営する、そこそこ裕福な家の長男として生まれる。

 自由民権運動が盛んな土地柄。小学生のころ、先生の「工場で労働者が搾取されるのを止めるには?」との質問に、「もっとたくさん工場を造ってたくさんの人を雇うようにすればいい」と答え、先生から面罵された。この経験もあって、中学からは進学校の中・高一貫教育の私立校に進む。そこには「これまでと違う別の景色が広がっていた」という。水が合ったのだ。

 「高校に上がったころから、政治や経済の本をよく読むようになった。最も心に響いたのは政治学者の高坂正堯著『海洋国家日本の構想』。進む大学と学部の選択も、その線上で判断しました。苦労したのは、親の借金の返済と保証人になったための保証債務。30歳代前半に親の会社が倒産し、その後約30年間背負い続け、60歳代半ばにやっと解放されました」

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