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《zak女の雄叫び お題は「夏休み」》携帯の寿命

 「朝も昼も夜中も、1日に20回もかかってきて大変よ」

 ここのところ認知症の症状が進んだ祖母から日に何度も電話がかかってくると実家の母が閉口気味です。実家近くの施設にいる祖母は、電話口で「早く家に帰りたい」と訴えるといいます。施設に入る前に祖母がひとりで暮らしていたマンションに戻すのはさすがに厳しい。母が自分の家に連れ帰り、数日間を過ごして施設に戻すのがやっとです。

 母を悩ませるその電話、祖母が使っているのは何年も前に購入したいわゆる「らくらくフォン」です。高齢者にも操作が楽という触れ込みで、いろいろなことを忘れる祖母も今のところ、母と通話することができています。

 ところがその携帯をめぐって最近、通信会社からたびたび「新しい機種に変更できます」との案内が届くようになったのです。先日はついに、「お使いの機種は、3Gサービス終了に伴い2022年で使えなくなります」との通知が届きました。

 さて、困った。新しい機種に変えるにはお得な割引サービスもあり、金銭面の負担はそう大きくありません。問題は、93歳の認知症の祖母が新しい機種の操作を覚えられるかどうかです。記憶が混濁する不安の中で、携帯に登録された母の番号を必死に鳴らす祖母の姿を想像すると、機種を変更することは命綱を切ることのようにも思えます。

 そして、22年という時期も悩みどころです。そのころ祖母は、96歳になっています。歩ける状態でいてくれるか、病気の進行はどうか、そもそも元気で生きていてくれるか。先のことは分かりません。

 中学生の頃から、夏休みになると私はひとり新幹線に乗って、祖母たちが住む家に“避難”したものでした。自宅にいるのが辛かったのです。家庭の事情を聞くこともなく、孫を迎えてただ喜ぶ祖父の顔、いつも連れて行ってくれたスーパー、顔を見せてくれた親類、「お母さんに元気でやっとると電話したら」と促されダイヤルを回した黒電話。いずれももう、なくなってしまいました。

 子供の頃は長く感じた夏も、大人になった今はあっという間に過ぎ去ってしまいます。技術革新のスピードだって桁違い。なんでも早く進む現代において、らくらくフォンの寿命が短いのは仕方ないことなのかもしれません。セミの寿命は1週間でなく1カ月だと証明した高校生が話題になっていたけれど、それだって夏の終わりとともにセミは死んでしまいます。

 すべてのものに寿命があると分かっているけれど。例え自分から電話を掛けることができなくなっても、3Gサービスが終わっても、祖母が長くゆっくり暮らしてくれることを私は祈ってしまうのです。(み)

 

 演劇大好きなアラフォー根無し草。エアコンが壊れそうでひやひやする毎日です。

【zak女の雄叫び】取材や日常…。女性記者21人が月ごとのキーワードで本音を綴るリレーコラムです。8月のお題は「夏休み」です。

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