【新書のきゅうしょ】「ソフィスト」「諸子百家」の後継がひろゆき? 野崎昭弘著「詭弁論理学」(中公新書、1976年) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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【新書のきゅうしょ】「ソフィスト」「諸子百家」の後継がひろゆき? 野崎昭弘著「詭弁論理学」(中公新書、1976年)

 テレビで討論する番組の歴史を振り返ると1980年代後半以降、田原総一朗による「朝まで生テレビ!」と「ビートたけしのTVタックル」あたりがパイオニアか。

 現在、圧倒的に面白いと思うのがネットテレビABEMAで平日夜放送される「ABEMAPrime」である。特にパリ在住のひろゆきがリモート出演してMC役をこなす金曜日。「コロナ」「リベラル」などその時々のテーマに強いパネリストが数人登場してひろゆきが加わる構成だ。しかし、彼がひとたび、画面の向こうから「根拠ナシで喋るのやめてもらえますか?」「頭の悪い人が頭の悪い提言している感じにしか見えないんすよねえ」と迫ると議論は一瞬で詰んでしまう。

 ひろゆきの一番の強みは他人の発言の論理矛盾をすばやく指摘して、さらしものにしてしまう点。論敵に具体的な論拠を求め、自身は反証データを即提出して「それ、知らないんですか?」と迫るシーンは、まるでドラマのクライマックスを見るよう。たとえ自身が反対派の意見に与(くみ)していても、彼らが追い詰められるのを見るとなぜかわくわくする。

 私がかつて広告会社に勤務していた頃、マーケ、クリエイティブなどのオールスタッフ会議では、いかにエッジの利いたコメントを繰り出すかがポイントだった。私はその手の発言が本当に苦手だったのもあり、ひろゆきのような人物には嫉妬と共に憧れも感じてしまう。むかし、『詭弁論理学』に手を出したのもそんな気持ちがあったからだろう。著者の野崎昭弘自身、議論下手でその克服のために書いたとはしがきにある。

 著者は「詭弁」を発達させた先達として先ずギリシャ時代のソクラテス、アリストテレスなどの言葉を武器とする哲学者たちを挙げる。その流れの中で、弁論に長けた「ソフィスト」(知者、教師、詭弁家)を輩出した。

 また、「諸子百家」の時代の中国では、孔子に始まる儒家や老子・荘子などの道家が現われた。中に論理的な思索をおし進めようとした名家と呼ばれる一群もいた。

 その時代の思想家の挿話として、溺れ死んだ金持ちの遺体を拾った男から高額の謝礼を要求された遺族の話が載る。

 困った遺族が当時有名な学者のトウ析に相談すると「心配いりません。あなたがお金を出さなければ他に出す人はいないのですから」と教えた。

 そこで遺族が強気に出ると死体を拾った男も弱ってトウ析に泣きついた。すると彼は「心配いりません。あなたが死体を渡さなければ遺族は別の死体で間に合わすわけにはいかないのですから」と答えた。トウ析は両方から謝礼を得て得をしたという。

 どんな論題でもその時々のパネリストを圧倒してしまうひろゆきのようだ。(矢吹博志)

 

 ※小欄では品切れ、絶版も含めた新書名作の“旧書”をご紹介。気になる書籍は、在庫のある書店や古書店などで“捜索”を。

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