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「カネ」で抗議デモ懐柔する香港政府 米中摩擦が香港地盤沈下を加速させる皮肉

 香港の騒動は、新学期を前に新たなステージに突入し始めたようだ。両者の情報戦を象徴するのは、中国系の香港紙『大公報』が21日付で出した記事だ。『中国新聞ネット』などに転載された記事のタイトルは、〈学業不振の“香港独立派”頭目はいかにして名門校に合格したのか? 香港人がイェール大学に説明を求める〉である。

 多くを説明する必要はないだろう。要するに香港独立を仕掛けたリーダーには「ご褒美」として米名門大学に入れるという逃げ場が、米国の力によって用意されていると疑われているのだ。

 疑惑の根拠はリーダー・羅冠聰(ネイサン・ロー)氏が香港の大学で成績不良だったことだ。記事は「君はイェール大学に行き、君の呼びかけに応じた学生はジェール(刑務所)に行く」と結ばれている。

 指摘が香港デモの性格のすべてではない。しかし一断面であることも間違いない。天安門事件後の学生リーダーたちのその後と重なるからだ。

 その意味では、いま逮捕されている救われない700人には寛容な対応をしてほしいものだ。

 さて、話を香港政府とデモ隊の攻防に戻そう。

 デモへの対応として林鄭月娥(キャリー・ラム)長官は20日、「さまざまな階層の人々と交渉する場を設け、意見の違いを埋め、香港社会を前進させる」と述べ、妥協の姿勢を見せた。

 日本では、それでも「逃亡犯条例」が完全撤廃されないことなどが注目点となったが、私は別の発言が気になった。それは、この一連の騒動で香港経済に下振れリスクが生じたという理由で、「191億香港ドル(約2590億円)を投じる」と語ったことだ。つまり、カネによる懐柔だ。

 かつてこの連載でも書いたように、香港はいずれ補助金を投じる対象とならざるをえない。今回の財政出動は、それと同義ではないとはいえ北京の誠意はいずれ「カネ」で見せるしかなくなる。香港には現在の地位を維持する力はないからだ。

 林鄭長官の会見から間もなく、中国は香港に関係する経済圏構想を矢継ぎ早に話題とした。

 一つは、珠江(しゅこう)デルタ経済圏をもう一段盛り上げるための構想としての「中国の特色ある社会主義の先行模範区」建設であり、もう一つが粤港澳大湾区(えつこうおうだいわんく)発展計画である。いずれも深セン(しんせん)を中心として香港からマカオまでをのみ込んで発展させようという構想だ。

 香港のデモとは関係なく進められてきた計画であるが、根底には香港の地盤沈下を予測して、それを一帯として持ち上げようとの意図が見える。

 同じ時期、上海自由貿易試験区のなかに「臨港新片区」を立ち上げる計画も報じられ、2035年までにGDP1兆元(約15兆238億円)を達成し、もう一つの浦東(ほとう=10年上海万博が開催された臨海部の新興地区)を創ると鼻息も荒い。

 アメリカの保護主義に対抗する意味で進められている計画だが、これが進展すれば香港の地位はますます奪われることになろう。米中摩擦が香港の地盤沈下を加速させているとしたら皮肉である。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

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