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「香港で騒いでいることでデモするなら、オレたちは365日ずっとデモ」 北京で感じた香港の「遠さ」

 「怒っても無駄だ。システムがいかれてしまったみたいだからな」

 タクシー運転手があきれ顔で振り向いた。北京の空港を出て最初の料金所で、長時間止められたときのことだ。ゲートは遮断機が降りたままピクリともしない。

 「しかし1つのトラブルですべてのゲートが止まるなんて」

 と疑問を口にすると、

 「だから中国製はダメなんだよ。いいって思っても3日ももたない。同じ原子爆弾といってもアメリカが破壊できるのは10キロ四方。でも中国は300メートルだ」

 と軽口をたたいた。

 続いて話題が香港のデモになったとき、運転手は前を見て「おっ」と声を上げた。

 「見えるか? 軍の車列だ。これ、原因は機械の故障じゃないな。交通規制だ。もうすぐ建国70周年だ。あの軍事パレードのためだ」

 見ると渋滞した車の隙間から、迷彩柄のシートをかぶせた重厚なトラックの列が料金所の向こうを移動しているのが目に入ってきた。

 渋滞に飽き、車を降りて、たばこを吸っていた運転手たちもポカンとしてそれに見とれた。

 およそ5分くらいで車が流れはじめると、運転手は、「これだよ。庶民は我慢するしかない。香港のヤツらは騒いでいるけど、あいつらが騒いでいるようなことでデモするなら、オレたちは365日ずっとデモだ」

 といって笑った。

 どうといった内容ではないが、香港との距離感が伝わる会話だった。

 日本で香港の報道を見ていると、まるで中国全土があのデモで揺さぶられているかのような印象を受けるが、北京に来ると、逆に香港の「遠さ」を実感させられる。

 別に北京は北京で、香港で何があろうと、予定されていることを日々こなしていて、そこに香港が入り込む余地はないといった感じなのだ。

 あえて目を背けているわけでもない。

 ましてや習近平が責任を追及されるといった話ではなおさらない。

 8月29日には、国務院新聞弁公室が会見で、建国70周年記念イベントの軍事パレードは、未発表の先進兵器を披露し、パレード自体の規模は前回(抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年)を上回ることになると発表された。

 中国で流れている香港デモのニュースは、たいていデモ隊を「悪」とする内容だ。並べてみると、例えば通勤電車のドアに立ち続けて運行させないデモ隊員に、乗客が「気持ちはわかるが、あんたの両親も仕事して、その金で学生やってるんだろ」と噛み付かれるシーンやCNNが香港警察を悪意で報じた問題で同社幹部が謝罪したとか、デモ隊が12歳の子供まで利用--6月から16歳未満の子供が10人以上逮捕されている--したというニュースだ。

 記事ではデモ隊をゴキブリとか廃青(ゴミ青年)と口汚く罵(ののし)るが、だからといって人々が洗脳されているわけでもない。

 伝わるのは単純に関心の優先順位の低さだ。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

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