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世界に「法治国家」アピール? 新型コロナ「告発の英雄」医師めぐる調査のウラ

 新型コロナウイルスの感染拡大に苦しんできた湖北省武漢に日常が戻りつつある。すでに公共バスやタクシーが街を走り始めたと報じられた。

 4月8日には武漢市の封鎖も一部解除され、湖北省の健康管理システムのコードを有する者を対象に武漢市を離れることが許される。武漢を除く湖北省全体では、3月25日から同様に解除されてゆくという。

 眠っていた都市から再び全国が動き出す予感が広がり始めているが、一方で中国もずっと完全に機能停止していたわけではない。

 例えば、習近平の大好きな“反腐敗”だ。

 年が明けてから2月29日までの間、「8項目の規定」に違反して処分された公務員や準公務員の数は、2万4852人にも上っている。

 まさに新型コロナウイルスの感染拡大で全国が悲鳴をあげているのと同じ期間、1日415人のペースで処分が続けられていたことになる。かつての1日800人を超えるペースから下がったとはいえ驚異的だ。

 さて、その国家監察委員会(党中央規律検査委員会)の動きで最近、最も注目を集めたのが武漢で発生した謎の肺炎が拡大する問題をいち早く告発したことで訓戒処分を受けたとされる李文亮医師(後に新型コロナウイルスに感染し死亡)に対する処分が適正だったかを見極める調査だった。

 実は、新型コロナウイルスの問題で全国に動揺が広がっていた期間も、監察委は全国で4つの大掛かりな調査を手掛けていた。そのうち3つに関しては非常に早くに決着したのだが、李医師の問題だけが異例に長引いていたことがひそかに話題となっていたのである。

 李医師への処分の妥当性に関し正式な調査が入ったのは2月7日のことだ。結論が導き出されたのが3月19日だから1カ月以上だ。同時進行していた別の案件が6日前後で終結していることから見ても異例に慎重だ。

 監察委員会は最終的に李医師へ訓戒処分を下した警官の行為を違法とし逆に処分を下した。処分の理由は、法律の適用、法執行における誤り、そして監督管理不足だ。

 発表を受けて武漢市公安局は、直ちに李医師の家族に謝罪するとのコメントを出した。

 日本のメディアはこのニュースを「習近平指導部に対する批判をかわす狙い」との解説をつけて報じたが、少し違っている。というのも李医師はそもそも日本で知られているような「告発の英雄」ではないからだ。

 公開された調査資料によれば、李医師は仲間内の発信を、勝手にばらまかれてしまい困ったという。また後には自ら「SARS」と伝えたことを慌てて訂正もしている。

 つまり、そもそも告発というくくりで報じたことに無理のある話なのだ。

 ただ処分の撤回にはセレモニーの匂いが強い。何といっても交番に自ら出向いて訓戒書を書いただけの話だ。彼が所属した病院もそれを問題視していない。要するに「オレたち法治国家だよ」というアピールだろう。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

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