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【zak女の雄叫び】《zak女の雄叫び お題は「涼」》思い出す風鈴の音色

 子供のころは、夏休みになると埼玉県熊谷市の祖父母の家に帰省していた。熊谷といえば、今年も41・1度を観測して国内最高気温を更新するなど「暑さ」で有名なまちだが、不思議と暑かったという記憶はない。

 日中は祖父の畑仕事を手伝ったり、祖母と一緒に庭に生えているミョウガを採ったりして汗をかいた後、夕方は縁側でごろごろしながら涼む。冷房はなく、扇風機と団扇(うちわ)であおぐ風だけが頼りだったが、風に揺られてチリンチリンと鳴る風鈴の音色が耳に心地よかったのを覚えている。

 祖父の後を追って数年前に祖母が亡くなってからは、家は伯父やいとこらが引き継いだ。私が関西在住ということもあって、仕事の忙しさを理由にしてしばらく足が遠のいていたが、今夏は久しぶりにお盆参りに行くことにした。

 汗をぬぐいつつ熊谷に到着すると、昔ながらの木造2階建ては、白っぽいコンクリート造りの二世帯住宅に建て替えられていた。

 「今年は特に暑いね」「でも、そのおかげでいつのまにか熊谷の知名度が上がったもんだ」。久しぶりに会う伯父たちとそんな会話を交わすのもそこそこに、キュウリやナスが飾られた仏壇に線香を上げ、祖父が好きだったビールを供える。

 そういえば、子供のころは祖父の膝の上が大好きで、食事のときなどによくまとわりついていた。初の女の子の孫ということもあって、祖父には特別かわいがってもらっていた気がする。

 私が小学生になる前に祖父は亡くなったが、それからも祖母が毎年笑顔で迎えてくれた。私が新聞記者になってからは、祖母は私の記事の切り抜きを「宝物」と言って大切そうにしまっていた。そして、こう私に笑いかけた。「宝物が増えるのを楽しみにしているの」

 建て替えられた家は現代的な構造で、かつてよく涼んだ縁側はもうない。ただ、仏壇の前で手を合わせながら祖父母との思い出に思いをはせると、自然と穏やかな気持ちになり、しばらく外の暑さを忘れた。(江)

 【zak女の雄叫び】取材や日常…。女性記者21人が月ごとのキーワードで本音を綴るリレーコラムです。8月のお題は「涼」です。