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【追悼 映画監督・佐々部清が伝えたかったこと】社会や時代に翻弄される普通の主人公を描く 『夕凪の街 桜の国』『東京難民』 (1/2ページ)

 「以前、Vシネマを監督しないかという話がきた。でも僕はカーチェイスをしたことも、ヤクザと向き合ったこともない。僕がヤクザを主人公にすると、元アイドルを逃がすロードムービーになる。とてもやれないと断りました」

 この話を聞いたとき、佐々部清監督の在り方の一端を見た気がした。佐々部監督は自分が実感を持って理解していることをベースに脚本を書き、演出しているのだ。結婚して子供がいるからこそ、家族にこだわるのだろう。だから佐々部作品では派手なアクションや撃ち合いをする主人公はおらず、社会や時代に翻弄される普通の主人公が描かれる。

 『夕凪の街 桜の国』(2007年)は広島で被爆した若い女性の悲劇と、現代の東京で生きる女性のルーツ探しが重なる。こうの史代のコミックの映画化で、私は佐々部の代表作だと信じている。同じこうの原作の『この世界の片隅に』はアニメ化で大ヒットしたが、彼が脚本まで仕上げていたと知って、見たかったと思った。

 『東京難民』(14年)は父の失踪で学費が払えなくなり、アッという間に“ネットカフェ難民”に転落する大学生の話。コロナ禍で学費が払えず中退を考える学生が増えているというニュースを見るたびに、リアルな映画だったと再認識する。『半落ち』と同じ横山秀夫の小説を映画化した『出口のない海』(06年)は人間魚雷回天に乗り込む大学野球の元エースの話。この2本の大学生映画は佐々部監督自身の発案ではない。前者は脚本の青島武が原作本を勧め、後者は尊敬する山田洋次監督に声をかけられて、「戦争の愚かさを描かなければならない」と参加した。新しいことに挑戦する意欲と、翻弄される人間に対する共感が見てとれるのがいい。

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