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【ドクター和のニッポン臨終図巻】デザイナー・高田賢三 パリの空で最愛の人との再会祈る

 コロナ第2波も収束しつつあるという見方が大半ですが、海外に目を向けると、まだまだ油断はならないと感じます。

 特にフランスやイタリアなどは10月に入って感染者が急増。検査数が増加していることもありますが、バカンスから帰った若者が感染を広めているという見方もあるようです。そんな中、フランスから悲しいニュースが飛び込んできました。

 私のようなファッションに疎いオジサンでもその名を知っているブランド「KENZO」の創始者で、色彩の魔術師とも呼ばれた世界的デザイナーの高田賢三さんが、パリ郊外の病院で亡くなられました。享年81。死因は、新型コロナウイルスでした。

 高田さんも、9月初旬から南フランスへバカンスに出かけていたそうです。しかし、パリに戻った直後から体調不良を訴え、9月10日に入院。翌日、コロナ陽性と診断されました。

 入院後しばらくは状態が落ち着き、「体調が良くなってきた」とスタッフにメールも送っていたようですが、10月に入って急激に悪化したようです。

 感染当初は倦怠(けんたい)感や発熱といった風邪のような症状だけで、歩いて入院できるほど軽症な方でも、その後、急激に悪化するケースがあるのが、新型コロナの恐ろしいところ。

 回復に向かっていると思っていたところで突然、重症化した肺炎が発見される例は、いまだ後を絶ちません。命の危険が差し迫っているほど血中酸素飽和度が低下しているにもかかわらず、頭痛や呼吸困難の自覚がないまま進行するため、この病態を「Happy hypoxia」(幸せな低酸素症)と呼ぶ人もいます。これはもともと、航空業界の用語であり、高度の高いところを飛行したパイロットに見られる症状で、インフルエンザや他の肺炎で見られることはあまりありません。

 なぜ「Happy」なのかといえば、低酸素状態になるにつれ幸福感に溢れて、気持ちよくなることがあるのです。そのため、息苦しさを自覚しないまま病状が悪化してしまう。ですから私は、在宅患者さんが発熱した場合には、重症化する前に把握できるよう低酸素血症を可視化するためにパルスオキシメーターを常備することを勧めています。

 もしかすると高田さんも、苦しさを感じず、幸せな気分のまま旅立たれたかもしれません。

 高田さんは最愛のパートナーを30年前にエイズで失いました。その後、お仕事にも多大な影響を及ぼすほど、傷心の時が続いたようです。パリの空の上で、お2人が久しぶりに再会されることと祈っています。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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