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【ドクター和のニッポン臨終図巻】バーテンダー・井山計一さん 「今日が大事」言葉に重み (1/2ページ)

 僕はワイン派なので、洒落たバーに行っても、カクテルはよくわからないから注文することはほとんどありません。しかし以前、山形に講演会で伺ったとき、地元の人が連れて行ってくださったバーで頂いたこのカクテルのことは、今でも印象に残っています。

 ライムの香りが爽やかな、程よい苦みのウオッカベースのショートカクテル。白と緑のコントラストがなんとも美しく、グラスの縁には粉雪のように砂糖がまぶしてあります。飲むうちに現れるのは、エメラルド色をしたミントチェリー。幻想的で、大人の雰囲気の酒でした。

 「このカクテルの名は、『雪国』というのです」--山形が生んだ、世界的に有名な逸品であるということも、このときに教えてもらいました。

 この素晴らしいカクテル「雪国」の生みの親であり、国内最高齢のバーテンダーであった現代の名工・井山計一さんが、5月10日に亡くなりました。享年95。死因は、老衰との発表です。

 大正15年に山形県酒田市で生まれた井山さんは戦時中、東京の軍需工場で働いていました。下宿に焼夷(しょうい)弾が落とされた日は、たまたま夜勤だったため命拾いしたそうです。召集令状が来たのは1945年8月17日だったため、戦地に赴かずに終わりました。その後、福島のキャバレーでバーテンダーとして働いた後、55年に酒田に戻り、「ケルン」というお店をオープン。オリジナルカクテル「雪国」が、コンクールのグランプリに輝いたのは58年のこと。それから65年もの間、「ケルン」でシェーカーを振り続けた人生は、2018年に「YUKIGUNI」というドキュメンタリー映画にもなっています。

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