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【東京舞台さんぽ】甦る寺内貫太郎の息吹 谷中を歩く

 向田邦子脚本のドラマ「寺内貫太郎一家」は、石材店を営む一家と隣人たちが織りなすホームコメディー。舞台となった東京の下町・谷中には、坂と細い路地があり、寺社や低層の住宅が軒を連ねる。落ち着いた街並みを歩くと、人情味あふれる登場人物たちがひょっこり現れる気がした。

 JR日暮里駅の南口を出て紅葉坂を上ると、谷中霊園の中央を貫く「さくら通り」に出る。ドラマの放送終了後に向田が書いた同名小説では、貫太郎の娘の静江や手伝いのミヨ子が、つらいことがあると、逃れるようにここに来ていた。

 気温が30度近くになったこの日。霊園内は涼しく、都心なのに静かだった。墓地に怖い印象もあったが、静江たちと同様、不思議と心が安らいだ。散歩していた80代の男性は「お墓は寂しくない。たくさんの人に囲まれていますからね」と、愉快そうに話してくれた。

 谷中は江戸時代の都市計画で多くの寺院が集められ、門前町として発展した。霊園に近い観音寺の「築地塀」は江戸時代に築造された土塀で、当時の面影を今に伝える。

 頑固な石材店の主人、貫太郎は、6月に死去した小林亜星さんが好演した。谷中霊園から歩いて5分。店のモデルとなった江戸時代創業の「石六」を訪ねた。

 5代目の高橋倉光さん(80)が4代目の父六太郎さんから聞いた話では、1972年か、73年ごろ、向田が店を訪れ、石職人の作業風景や、ハンマーなど道具の扱い方を取材したという。

 「ドラマは実際より面白おかしく描いているよね」と高橋さん。店内にあった、きれいに仕上げられた墓石を見て、実際は地道な修業を必要とするのだと納得した。

 近くの「谷中ぎんざ」は懐かしい雰囲気の商店街で、昔ながらの個人商店を中心に約60店が立ち並ぶ。威勢のいい店員らの掛け声を聞き、ふと貫太郎らが生きた昭和の時代にタイムスリップしたような感覚を覚えた。

 【メモ】谷中霊園には実業家渋沢栄一や俳優長谷川一夫の墓がある。

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