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【ぶらり、ぶんがく。本と歩く】コンプライアンスの時代を感じる案内板「暴力を肯定するものではありません」 尾崎紅葉『金色夜叉』貫一・お宮の像 (1/2ページ)

 温泉旅館やホテルが急斜面に軒を連ねる。隙間を縫うような細い路地は、まるで迷路。なぁに、下れば海に出るはず。迷うのも楽しい。JR熱海駅から歩き出し、狭い急坂や階段を当てずっぽうにたどって、熱海サンビーチを目指す。

 海沿いの国道わきに細長い緑地。「お宮の松」の隣に「貫一・お宮の像」が立っていた。明治時代の作家、尾崎紅葉(1868~1903年)の代表作『金色夜叉』の名場面がモチーフ。主人公の貫一が、すがりつくお宮を足蹴にするシーンだ。

 〈来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから〉

 有名なセリフだけど、小説を読む前は、蹴るという行為とつながらなくて混乱した。お宮が貫一の元を去るわけだから、僕の涙で月が曇るのはわかる。でもどうして振られる方が蹴ってるのか。

 では復習。貫一は、許婚のお宮が富豪に嫁ぐことになったと聞いて、お宮が保養していた熱海を訪ねてきた。月夜の浜辺を歩く二人。お宮は心変わりしたわけではないと涙しつつも、縁談を断るとは言わない。

 恋愛感情より経済的安定ってやつ。貫一はなんとか説得しようとするがうまくいかず、お宮のちょっとした言葉にブチ切れて「腐った女!姦婦!」と蹴り倒す。

 〈生きながら悪魔になって、貴様のような畜生の肉をくらってやる〉

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